一番大切にしているのは、私のデザインしたボトルと、
それに入れたオリーブオイル達なの。
これで食卓の時間や、空間を楽しんでもらいたい。
マリナ・コロンナ社は、その受賞歴や商品どれを取っても煌びやかで華やかです。CIBUS 2006金賞、Ercole Olivario複数年連続入賞(金賞・銀賞)など、2006~2007年だけでも6つほど受賞しています。その華やかさの土台にある、情熱のこもった努力の数々をご紹介します。
文:加藤昭広(イル・ビアンコ)
モリーゼ州の草原の真ん中にマリナ・コロンナ社はあります。
マリナ・コロンナ社は、モリーゼ州の、アドリア海に面したテルモーリ(Termoli)から内陸に30分程度入ったところにあります。最初に訪問したのは2007年の2月でした。数々の受賞歴を持つこの会社の商品を偶然見つけ、訪問のアポイントを取りました。
アブルッツオ州の州都ペスカーラ(Pescara)からバーリ(Bari)に向かう高速に乗って1時間、教えてもらったインターチェンジを下りて工場地帯を通り過ぎると、あとはずっと一本道。曲がり角も、信号もなく、広々とした見渡す限りの平地で、ブドウ畑、果樹園、オリーブ畑…の繰り返しが続きます。道路のすぐ横を、一両編成で単線のディーゼル電車が走っていました。URURIという町を過ぎて更にしばらく走ると、道ばたにコロンナの看板があります。そこから小道に入ると、事務所兼自宅と、搾油所があり、放し飼いになっているたくさんの犬が迎えてくれます。
霧雨の中を進んでいきます
霧の中にあった小屋。緑の中にたたずむ姿は幻想的でした
幻想的な風景の中にマリナ・コロンナ社はありました
マリナ・コロンナ社の商品は、上質な空間や時間を提案してくれるようです
簡単な挨拶を済ませたあと、暖炉のある応接間に通されました。調度品の置き方、色遣い、どれも見事の一言に尽きます。色んなものがあるのですが、それらが全て目立ちすぎず、一つの大きな調和を演出しています。中国製の大きな掛け軸があったのですが、よくよく見ないとそれが東洋の物と分からないくらい、すんなりと空間にとけ込んでいます。この上質な部屋のコーディネートは全て、当主のマリナ・コロンナさんが行ったとの事です。彼女はイタリア貴族の流れを汲む人で、この農園も元々一族の領地だったとの事でした。
あとから感じたのですが、この華やかさと調和が、コロンナさんの商品にも共通しています。
最初はひたすら、私達が何者で、何をしたいと思って来たのかを聞かれました。私達のことを理解する事が目的だったようですが、相手は多くの受賞歴を誇る会社ですので、私たちのような小さな会社と取引してくれるか、気が気ではありませんでした。暖炉の前で座って話すコロンナさんの気品がとても印象的でした。
一通りの自己紹介を終わった後に私たちの方から質問。まずは農園の規模から聞いたのですが、扱っているオリーブ木は24種、24,000本!?最初は聞き間違えたかと思いました。普通の農園は多くても3、4種類のオリーブしか生産しません。それは、その農園の伝統であったり、生産するDOP規格など商品の都合から、そうなります。それに多くの品種を育てると、品種間の相性の問題もあり、うまく育たないオリーブが出てきたりして非常に手間がかかると聞いたことがありました。ですから24種類の栽培は聞いたことがありません。ある意味常識外です。それを毎年、一番美味しいものになるように時間をかけてブレンドをしているとの事でした。その話をしつつ奥のテーブルに通されると、コロンナ社の商品が一通りならんでいました。
調和のとれた空間の中で、彼女のオリーブオイル達はとても存在感がありました
コロンナさんと最初の対面。非常に緊張しました
優雅でやわらかな形が印象的なボトルは、彼女自身がデザインしたものだそうです。花びらのように開いた注ぎ口はオイルが注ぎやすく、丸いコルクによる栓で密閉できるようになっています。さらに一本一本、手作業によるシーリング・ワックス(封蝋)が施され、いくつかのデザイン賞も受賞しているとのことです。彼女の上質な居間に、ボトル達がよく映えていました。
オリーブオイルだけでもかなりの種類になります。勧めに応じて全て飲んで味見することにしましたが、非常に興味深い体験でした。特にフレーバー付きオリーブオイルの品揃えは圧巻で、彼女の父親のレシピを元に改良を加えたというレモン風味のグラン・ヴェルデに始まり、オレンジ、ベルガモット、カルダモンなどなど、長年にわたる努力を重ねて研究開発した製法や、有機栽培の素材にこだわって作り上げたレパートリーには、思わず感嘆の声をあげてしまいました。取材中に書いたメモを見ていただくと豊富なレパートリーを想像していただく参考になると思い記してみます。
味見の感想
- Blend Normale ※普通のエクストラバージン
(やわらかい香り、アーモンドのような丸い味) - DOP
(辛い、少しだけベルガモットの風味を感じる、強い香り。レッチーノ、ルッチョラ等を使用) - ビオ ※有機栽培
(ペンドリーノ。りんごのような後味。辛みあり) - ペランザーナ
(地物の品種。辛い、苦い、香り弱め) - イル・フラントイオ
イル・フラントイオ(トスカーナでよくとれる品種。りんご味+アーモンドのような丸い味) - ダ・ターボラ
(こしょうの香り+味はショウガ+すごく辛い) - レモンオイル
(生のレモンに非常に近い香りと味、でも酸味なし、後味もしっかりレモン) - オレンジオイル
(後味が濃厚なオレンジ。魚やフィノッキのサラダに、ケーキ作りのバター代わりに入れる) - マンダリーノ
(オレンジの種の香りがする) - ベルガモットオイル
(アールグレーの強い香り。おふろにも入れているらしい) - ジンジャー
(ショウガの香り。豆腐に合いそう) - カルダモン
(ショウガの仲間。チャイの香り) - トリュフオイル
(香りが強い、美味しい!) - セミドライトマトのオイル漬け
(やわらかい。オレガノの香りがきいている) - 黒オリーブの漬け物
(塩味が強め、味はとても良い、ペペロンチーニ入り) - 大粒グリーンオリーブ
(若い感じ、前菜に良い) - 黒オリーブのペースト
(すごく濃い、そのまま食べるには強すぎるかも。料理の調味料として使うのが良さそう・・・) - ドライトマトペースト
(ドルチェとピカンテがある。ドルチェは、甘やかでやわらかなスパイスの香りがして美味しい。ピカンテは辛い、スパイシー、しょうゆのような香り、ストゥッツィキーノみたいな感じ) - ズッキーニペースト
(品切れで味見できず) - ペペローネペースト
(やわらかい。美味しい。皮の苦みが少々強いか)
訪問前は、DOPのオリーブオイルにだけ興味があったのですが、味見をしてみて正直困りました。この生産者の個性を正しく紹介するには、可能な限り全ての商品を輸入しなければならないと思ったからです。フレーバー付きオイルなどは、その全てをもって独特な世界を表現しているような気がしました。24種類のオリーブの木と色とりどりの商品達。10人足らずの彼らが、これだけのバリエーションをいつも良い品質で作り続けるのは大変だと思います。この情熱と努力をちゃんと紹介するために、まずは、フレーバー付きオイルは全て扱うことにしました。
広大な農園には湖(イタリア語では湖ですが、日本語では大きめの池といったところです)が5つあり、天気の良い日は素晴らしい景色との事でしたが、訪問したのが冬でしたし、この日はあいにくの霧雨だったので次回また伺う約束をして、初回の訪問は終わりました。
再訪問、そして彼らの情熱と真摯な姿を目にしました
そして同じ年の7月に再訪問。気温40℃にもなりそうな暑い日でしたが、コロンナさん自身がハンドルを握り、ピックアップトラックで園内を案内してくれました。いろいろな種類のオリーブに、ひまわり畑、トマト畑、南イタリアの豊かな農園そのものです。2007年は非常に暑く、湖も干上がり気味で水不足が心配されましたが、手入れの行き届いたオリーブ達は元気に実を付け始めています。
真夏のコロンナ社は言葉に言い表せない輝きです
農園内にあるひまわり畑。見渡す限り黄色い絨毯が広がっていました
私たちが取引をお願いしている他の生産者もそうですが、コロンナさんも、やっぱり自身でいつも農園をまわり、オリーブの木を慈しみ、何千何万とあるにも関わらず一本一本の状態を良く把握しています。「これは去年元気が無かった」とか、「この木は最近これこれの手入れをして様子を見ている。いまひとつ元気ではないが先週よりは良さそうだ」とか。その真摯な姿勢、自分の仕事に対する誇りと情熱には、あらためて頭が下がる思いです。
見事な大粒のオリーブ。これはオイルの他、瓶詰めにもなります
枝を丁寧に調べながら、木の状態を教えてくれました
農園を回るうちに気がついたのは、土が非常に軟らかいことです。元々やわらかい土壌がこの農園の特徴ですが、そのせいだけではなく手作業で除草したり、剪定する際に土の掘り返しをしているとのことでした。24,000本の全てを手作業で。コロンナさん自身も、私たちを案内している途中に石などを見つけると、車を止めて荷台に積んでました。
除草などの手入れは手作業でします
オリーブが養分をたくさん吸収するように、下土も丁寧に掘り起こしています
一通り農園を回った後は、出荷作業の現場を見せてもらいました。ちょうどレモン風味のオリーブオイルの出荷作業をしていたのですが、ラベル貼りもロウの封印も、作業は一本一本手作業で大事に箱詰めされています。もう20年も勤めてるのよ、という女性達が、にこやかに、黙々と作業を続けていました。
手に取ったお客さんが喜んでいるのを思いながら、心を込めて一本ずつ丁寧に封印します
オフィスにある賞状、このほかにもトロフィーなどが所狭しと置かれていました
コロンナさんが提案しているのは上質だけどシンプルな日常でした
昼食をご馳走になりました。ボッタルガ(からすみ)のパスタに、ベルガモットオイルで風味付けしたものをいただきました。海鮮パスタにベルガモット風味のオイルを使うなど、思いもよりませんでしたが、素晴らしい香りです。
「私達はいろいろな商品を作っているけれど、マリナ・コロンナを代表する「顔」として一番大切にしているのは、私のデザインしたボトルと、それに入れたオリーブオイル達なの。これで食卓の時間や、空間を楽しんでもらいたい」と言っていました。また、フレーバー付きオイルをどのように日本に紹介したら良いか、相談した私達に、彼女はアドバイスをくれました:「よく色んな人からフレーバー付きオイルはどうやって使えば良いのか聞かれるので、私たちのWebサイトには友達のシェフ達に頼んで作ってもらったレシピを載せているの。だけど、私自身は茹でた野菜にかけるだけとか、シンプルに使うのよ。ふつうのエクストラ・バージンと同じ。構えずに、ただ、その日の気分に合わせて食卓の香りを楽しめばいいのよ。」
ほかにも食卓では色々な話をしました。このあたりの歴史、大学卒業間近の娘さんの話やら、海外での経験の話などなど世間話。前回会った時は貴族の末裔という彼女の経歴に私たちが臆してしまったせいか、非常に高貴な方という印象が強く残っていたのですが、一緒に農園を回り、食卓を共にさせていただいて、強い情熱と意志を持った農園主の顔と、一人の母親としての横顔なども拝見していくうちに、彼女が気取らない、とても魅力的な女性だと感じるに至りました。またぜひ訪れ会いたい人です。
最後にコロンナさんが言っていたことですが、彼女はこの仕事を通じて世界中の色々な人と知り合えるのを喜びにしているとの事です。
コロンナさんが提案する食卓・時間・空間を彩る商品達。ぜひお試しください。
マリナ・コロンナ社のみなさん。彼女たちが心を込めて作ったオリーブオイルをお届けします
広大なマリナコロンナ社の農園は、南イタリアの恵みであふれています。丁寧に手作業で手入れされて得られたオリーブから生まれたオリーブオイルはひとつずつ、心を込め瓶詰めされて出荷されます。
生産者情報
社名 | マリナ・コロンナ |
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所在地 | マリナ・コロンナ |
従業員数 | 11人 |
創業年 | 1980年代 |
主な生産物 | オリーブオイル、びん詰め食品 |