オーガニック食品
農薬等を使用していない食品ですので、安心される方も多いと思います。
私もアレルギー持ちですので、この手の話には感心があります。
しかし、オリーブオイルに関しては、作り手側は賛否が分かれます。
懐疑的な考え方を持つ人達は、
「オーガニックのオリーブオイルは美味しくない」
「害虫も美味しい実から食べていくから残った実で絞ることになるし、雑味が出てしまう」
このような言い方をする人が多いです。
この人達の言う”雑味の正体”は、あまり美しい話では無いのであとで。
一方、オリーブオイルのオーガニック生産について肯定的な生産者の主張は、
「自然こそ、美味しいものを作る源。体にも良い」
だいたいこんな感じの事を言います。
さて、私がイタリア人の人から話を聞く時に気をつけている事があります。彼らは主観で話をする人が多いと思います。事実を積み重ねて意見を言うのでは無く、当人が手に入る情報を基に主観で話をしている事が多かったですし、それを許容する土壌がイタリアにはあると思います。イタリア人は議論好きですからね「パスタを茹でるお湯に、塩は沸騰してから入れるか、沸騰する前に入れるか」で結構盛り上がったりします。
よく「イタリア旅行に行った時に道を訪ねたら間違っていた」という話を聞きますがそれは、聞かれた人が”私はそう思う”をベースに話をしているからだと思いますよ。
それらの特徴や色々な方から聞いた上で、私がオーガニックのオリーブオイルについて思うことは
1.元々害虫が少ないなどでオーガニック生産を行って良い畑と、オーガニック生産に適さない畑がある
2.味の良し悪しは、有機かどうかでは無く、信念を持って丁寧に仕事をされている畑から生まれる
3.商業的な目的だけで、有機栽培に適さない畑でオーガニックオリーブオイルを作っている話を聞くと腹が立つ
こんな感じです。
オーガニック賛成派の詳しい主張は、次回ご紹介するとして今回は、まず懐疑的な意見から。
この会社は、フラントイオ ヴェンチュリーノと言います。社長は、バルターさん。彼は、美味しいものを作るには、人は積極的に自然に関わった方が良いという人です。
彼のご先祖様は、代々オリーブの生産に関わってきたらしいです。どれくらい前からかは、あまりにも昔の事で記録が残っていないので分からとのことでした。
バルターさんが記憶している先祖の事と言えば、オリーブ畑で仕事の途中に亡くなったお爺さんのこと。「オリーブ生産者としては、とても幸せな人生の最期だった」と言っておりました。先祖代々、オリーブに人生の全てを捧げている人達です。
彼の畑と工房は、北イタリアリグーリア州、インペリア県のディアネーゼ谷にあります。南仏ニースから東へ80km、ジェノバから西へ120kmのとても温暖な気候の地です。
このディアネーゼ谷は、とても恵まれた谷です。
暖かい海から、谷の突き当たりまでわずか5kmと短くて暖気が溜まりやすく、さらに北側に高い山があり寒気が入ってきません。確か1986年だと思うのですが、イタリアに-20℃の寒波が襲ったことがあります。ここインペリア州から、もっと南のトスカーナ州の方まで、多くのオリーブの木が凍り付いてしまい農家の方々は、泣く泣くオリーブの木を切りました。
しかし、このディアネーゼ谷のオリーブの木20万本は、1本も枯れなかったと聞きました。ジェノベーゼ用のバジルの仕込みをしていた人は、「この谷は、隣の谷より平均気温が5℃高いよ」と言っていました。5℃は言い過ぎでしょうが確かに暖かいと思います。畑の詳しい様子などは、こちらの記事ご参照ください。
ものすごく気候に恵まれているので、この谷ではオーガニック栽培は不可能でしょう。
バルターさん自ら毎日畑に出て、手塩にかけて育て自ら搾油したタジャスカ種のオリーブオイルは、デキャンティング(澱引き)しただけの無濾過で仕上げます。ちょうど日本酒の濁り酒のような感じです。完熟の実を使用するタジャスカ種のオリーブオイルですからマイルドなのですが、この濁りの濃厚さが相まってしっかりした味わいになります。
この地方の食文化は魚介類が中心ですので、魚介・サラダに相性が良いオリーブオイルです。加えて白身系の肉料理(例えば、塩で焼いた豚肉や鶏肉)との相性の良い品になっています。その中で特にお勧めしたいのは、「イカ」。以前バーベキューに持ち込んだ事があるのですが、イカとの相性は最高でした。このような食材がお好きの方には、ぜひお試しいただきたい品です。
私が、このヴェンチュリーノ社(Frantoio Venturino)の「ヴァッリ・デッラ・タジャスカ」をお送りする際に気をつけていることは、「鮮度」です。入荷したばかりの品と賞味期限が残り6ヶ月の品を比べたことがあるのですが、明らかに味わいが違っていました。「重い」というか軽快さが全然無くなっていました。
このオリーブオイルの特徴である「フレッシュ感」は、濁りで仕上げてところから起因すると思うのですが、オリーブオイルの濁り成分は、非常にデリケートです。それにこの品は、完熟タイプのマイルドなオリーブオイルですので色々考えて扱っています。輸送手段は空輸のみですし、賞味期限にも注意しています。お客様の手元に渡る時に賞味期限が1年以上残っている事を計算して、このオリーブオイルは最大でも3ヶ月分の在庫しか仕入れていません。
2007年に最初訪問した時に「日本には輸出してないよ」と言っていたので取り扱いを決めたのですが、帰国してから探してみたら有名食料品店でも取り扱っておりました(笑)まぁバルターさんは商売に興味が無さそうな人なので良いと思っています。ただ、店頭にて見かけられたら残りの賞味期限にご注意ください。
さて、彼のオーガニック栽培オリーブオイルに対する意見ですが、「有機栽培は、理想論でしか無くて美味しいオリーブオイルはできないよ」と申しておりました。私がなんでそんなことを聞いたかと言いますと、彼の工房に行く直前に別の生産者の方から”いかに有機栽培が素晴らしいか”を半日山の畑を歩きながら聞いたからでありました。この”ものすごく近所”にある”オーガニックのオリーブオイル賛成派の方の話は、次回ご紹介します。
最後に、冒頭記させていただいたオーガニックのオリーブオイルの雑味について
これは、旧知の知人とオーガニックのオリーブオイルに否定的な人が何人か集まった時に聞いた話です。
バルターさんが言ったわけではありません。
彼ら、オーガニックのオリーブオイルに否定的な人達は私に
「ヒロ、(向こうではこう呼ばれています)良く聞けよ」
「有機栽培のオリーブオイルは、商業的に売れるので作る人達がいるけど、有機栽培のオリーブオイルは、美味しくないんだ、害虫も美味しいオリーブの実から食べるから美味しい実は使えないし」
「一応、虫食いがある実は、搾油する時に取り除くんだけど、その取り除き方法が完璧ではないんだ。虫食いがある実かどうかは、水槽に実を入れて浮いてきたものを取り除くんだけどな、もし、実の中に害虫が残っていたりしたら、沈んでしまうので絞ることになってしまうんだ」「だから、オーガニックのオリーブオイルには、どうしてもcattivo sapore(私は雑味と理解しました)が出てしまうんだ」
と申しておりました。
彼らの情報の出所は知りませんし、前出の通り割と主観で話をされることが多い国民性なので話半分としても、もし本当に商業的な目的だけでオーガニックのオリーブオイルを作っている人がいたら、いかがなものかと思います。オリーブに限らず有機栽培は本当に大変だと思います。一生懸命オーガニックの仕事をされている人達に迷惑のかかる事ですからね。
さて、この次回は、有機栽培に適した畑のオリーブオイルについてです。
この畑は、地形的な要因から害虫が非常に少ない稀な畑です。
働いている職人さんも、人間味溢れる熱血頑固者ですよ。
株式会社 il Bianco 加藤